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矯正症例集II

矯正症例集II 1990年 4月発刊 51症例(326ページ)上顎前突

(以下 序文より抜粋)

はしがき

歯科矯正学あるいは矯正臨床学の学び方を便宜的に二つに分けることができます。
ひとつは科学的枠組を基盤とした生物医学モデルの秩序にしたがって段階的に理論から学ぶ方法、いわば既存の論文型であり、もうひとつは臨床例という真理から経験的体験的に学びとる方法です。どちらを優先させた学び方が有利であるかは、それぞれの経験や立場によって異なると思いますが、臨床医は臨床例から学びとる機会が多いものです。
科学論文という形式は、基礎的な論文を範として、限局された部分の事象を縦方向に推進していく傾向がありますが、それに対して臨床は、それらの情報を横方向に結びつけて展開されるものであろうかと思います。言葉を換えれば、理論と実際の違いともいえるかと思いますが、それらは互いにかけ離れたものではなく、相補的に作用しあうものです。
臨床は、しばしば既存の理論を超えることがあります。臨床論文の多くが、経験から生じる直感や結果を科学的に証明、説明しようとしていることからも、それを理解できます。すなわち、研究内容や方向を臨床経験が先導しているということです。
臨床例は、理論や科学の枠を超えて存在する真理です。どのような研究や論文も、臨床例の事実を超えることも変えることもできません。なぜなら研究や論文は、自然の一部を観察者の眼を通して表現されたものであるからです。真理は常に観察者の能力をはるかに超えています。論文は観るものにとって見えない部分を見えるようにしてくれる効果もありますが、事実を細かく観察するという行為は、生体臨床医学に携わる者にとってきわめて重要であると思います。
臨床例を示す現在の資料には、残念ながら矯正臨床にとって重要な『こころ』の部分を含めることはできませんが、それでも多くの真理をそのまま生きた形で伝達するのに優れた方法です。資料に基づく症例提示は長い時間を凝縮した膨大な情報の宝庫です。
私たちは、臨床例を大切に扱い、そこから矯正臨床に必要な不変の真理を引出したいものです。

与五沢 文夫