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反対咬合-矯正症例集III

反対咬合-矯正症例集III- 1991年 4月発刊 50症例 313ページ

(以下 序文より抜粋)

はしがき
「反対咬合」という用語について

「反対咬合」という表現法はある種の不正咬合の内容をイメージするのに適したものでありますが、一方ではそれに属する不正咬合の範囲は広く、そのためか反対咬合に類するあるいは包含する類似語として、anterior crossbite、下顎前突など微妙に意味合いの異なる用語も用意され、場合によってはいわゆる反対咬合という表現法までが用いられることがあります。ここで、「反対咬合」という言葉を使うに際して、言葉の持つ意味を他の類似語と比べながら、私なりに論じてみたいと思います。
anterior crossbite(日本語の対語は現在では用意されていない)とは、前歯一歯の逆被蓋関係の状態から前歯すべてにおよぶ被蓋関係の逆転までを含み、下顎前突(mandibular protrusion, mandibular prognathism)とは、字の示すごとく上下顎の前後的な位置関係を中心に表現するもので、顎の位置関係の結果として前歯部の被蓋関係が逆転している状態のものといえます。これらふたつの言葉は、前歯の被蓋関係の逆転の理由の一部を漠然と暗示する響きをもっていますが、それに対して、反対咬合(reversed occlusion)という言葉にはその成立の理由を含まず、前歯の部分的な歯性の逆被蓋から骨格性の前歯被蓋関係までを含む広義的な意味を持った言葉として受け止めることができます。したがって、反対咬合には上下顎の前後的な位置関係を表すANB角のマイナスのものからプラスのものまでを含むことになります。また、どのような範囲のanterior crossbiteを反対咬合と呼ぶかについては、連続した3歯以上のanterior crossbiteのものを反対咬合として、1~2歯のそれを除外する例もありますが、私は、反対咬合は乳歯列から永久歯列まであらゆるステージに存在するという理由から、混合歯列期における中切歯2歯のanterior crossbiteも、また反対咬合のカテゴリーに入れるべきものと考えます。したがって、中切歯2歯以上の前歯部の被蓋関係の逆転のある咬合状態を広義に反対咬合と呼ぶべきかと考えます。元来、反対咬合というイメージからすれば、狭義には永久歯列においては前歯部すべて被蓋関係の逆転が考えられますが、混合歯列期の歯列の推移することを加味すれば広義の解釈が妥当かと思います。いずれにしましても、anterior crossbiteに対して「前歯交叉咬合」という日本語訳をおき、数歯の逆被蓋関係の表現に使用することができれば、咬合様式をもっと混乱なく表現できるようになるかと思います。

1991年 4月
与五沢文夫