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子どもの矯正開始のタイミング

子どもの矯正治療の開始時期「いつから始めたらいいの?」

歯科医師によって分かれる見解

幼児期から学童期(成長発育期)の子どもの矯正治療をいつから始めたらいいのかわからないと、心配されて相談に来られる方が多くいます。ある歯科医院では「すぐに始めた方が良い」と言われ、別のところでは「まだ早い」と言われることもあるようです。

現在、この成長発育期の子どもの治療開始時期に関して、実際に矯正治療に携わる歯科医師(歯科矯正医だけでなく小児歯科医なども含めて)の中で、共通の見解(コンセンサス)が得られているとはいえないのが実状です。
矯正治療を行う歯科医師の中で、成長発育期の治療開始時期に関する考え方は、大きく以下の3つに分けられます。

子どもの治療開始時期に関するさまざまな考え方

1.乳歯列期からできるだけ早く治療を始めたほうが良い
幼児期の乳歯の歯並びの時期から積極的に治療を行う。

2.混合歯列期に成長発育を積極的にコントロールする治療を行うほうが良い
6歳臼歯や永久歯の前歯が生え揃った頃から、永久歯の歯並びやあごの成長発育を積極的にコントロール(促進や抑制)する治療を行う。

3.個々の症状に応じてその時期に必要なことのみを行うほうがいい
6歳臼歯や永久歯の前歯が生え揃った頃から、患者さんの成長変化を見極め(予測し)、将来的な永久歯全体の矯正治療も考慮しつつ、個々の状態や状況に応じてその時期にできる必要な治療のみ行い、最小限で最大の効果が上がるようにする。

Yogosawa Foundationの考え

上記1~3の考え方を、同じ「前歯の反対咬合」の3つの症例で具体的にご説明します。

「1.乳歯列期からできるだけ早く治療を始めたほうが良い」という考え方

ひどくならないうちに早めに治しておこうという早期発見早期治療の考え方と相通じるものがあり、受け入れられやすいのですが、歯並びや咬み合わせの不正は通常の病気とは異なり、悪化してくるように見えても、本来成長発育の中に組み込まれている生まれ持ったものが成長とともに出現(顕在化)してくるパターンが多く、早く始めただけでは対処できない場合が多くあります。

2歳頃から矯正装置の使用を始めるケースや、10年以上装置を着け続けても改善がみられないケースなど極端な例もありますので、矯正治療そのもののデメリットも考えて治療にあたりたいものです。

<前歯の反対咬合の例 A>

子どもの矯正開始のタイミング

しばらく経過観察していると自然に咬み合わせが改善して、その後も安定しています。
患者さんによっては永久歯の前歯の生え変わりの時期に自然に治ることもあり、低年齢の乳歯の歯並びの時期から急いで矯正治療しなくても良いケースも多いです。

「2.混合歯列期に成長発育を積極的にコントロールする治療を行うほうが良い」という考え方

成長をコントロールすることは歯科矯正医にとって永遠のテーマであり、もし可能であれば積極的に成長をコントロールする矯正治療を行いたいと誰しも考えています。しかし、現実的には極めて精巧で複雑な成長発育を人間の手で簡単にコントロールすることは困難です。一部の例外や部分的には可能であっても、成長期間を通してあごや顔を含めた全体を人為的に完全にコントロールすることは不可能に近いと思われます。

やみくもに一律の治療を行うのではなく、矯正治療の限界も見極めた上で、個々の患者さんに合った治療を行ないたいものです。

<前歯の反対咬合の例 B>

子どもの矯正開始のタイミング

永久歯の上下の前歯4本ずつが生え変わった時点(8歳)で、約1年間の矯正治療を行いました。
その後、経過観察していましたが14歳になって全て永久歯に生え変わった時点でも咬み合わせはしっかり安定していました。

<前歯の反対咬合の例 C>

子どもの矯正開始のタイミング

Bと同様に上下の永久前歯4本が生えた時点(8歳)で、1年数ヵ月の矯正治療を行い、前歯の咬み合わせを改善しました。その後、経過を診ていくと15歳の時点では反対の咬み合わせが完全に再発し、さらに下の左側へのズレ(偏位)もみられ、外科的矯正治療の対象になりました。

8歳の時点から成長の続く間ずっと矯正をやり続ける、という考え方もいまだにあるようですが、それほど長期の治療をしても上手く治らなかったり、あごの関節に症状が出たりすることも多く、さらに、子どもが社会生活を営んでいる中であまりに長期の治療は大きな負担となり、酷であると考えます。

「3.個々の症状に応じてその時期に必要なことのみを行うほうが良い」という考え方

各々の患者さんの将来に渡っての成長変化を見極めた(予測した)上で、個々の状態や状況に応じてその時期に必要なこと、可能なことを行うことは、患者さん一人ひとりに合った最適な治療を受けていただくために大切なことだと考えます。

もちろん、必要であり可能であると判断された場合は、成長発育のコントロールも組み込んで治療を進めていきます。これは治療する側に高度な知識、経験、洞察力などが要求され、力量が問われますが、成長発育を扱う矯正治療には必要不可欠なものであり、質の高い矯正治療を提供できるようYogosawa Foundationも絶えず努力していきたいと考えています。

【参考】「早期治療の捉え方」

  • 生体に備わった素質が正常咬合への方向をもっており、なんらかの環境によってそこから逸脱した場合は早期の治療によって後の永久歯列での矯正を不要にすることができる。
  • 生体に備わった素質が正常咬合からやや外れている場合、早期治療による抑え込みによって永久歯の治療を不要にできる場合もある。しかし、この範囲は一般的に想像されているよりも狭く、多くは成長発育によって本来の素質が再現し、再度の矯正治療が必要になる。
  • 成体に備わった素質が正常咬合から大きく外れてある場合は、成長発育に伴ってさらにその傾向が強くなる。

<与五沢ディレクター プラクシスアートVol.1より改変>

上記「前歯の反対咬合」のA・B・Cそれぞれの症例からもわかるように、「いつ始めたらいいの?」という問いに対しては、患者さんごとにさまざまな要素を含んでおり、判断は極めて難しく、簡単にはお答えできません。実際の臨床の場では、成長後の好ましい永久歯の歯並びや咬み合わせを目標に、将来的な成長予測、その時点で必要な治療・可能な治療、治療期間や費用、治療のリスクなどを患者さんと相談しながら、治療開始時期を決めていくことになります。

矯正治療は、何歳になったから始めなくてはいけないというものではなく、ましてや初めて受診した時が治療開始の時などでは決してありません。

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