上突咬合症例
治療担当者:稲見 佳大 いなみ矯正歯科医院
治療前 Before Treatment
顔貌
口腔内
治療後 After Treatment
顔貌
口腔内
治療前 Before Treatment
治療方針
主訴は歯がでこぼこに並んでいて、上の歯が出ているとのこと。治療目標は、叢生、両突歯列、上突咬合の改善。口唇閉鎖時の口腔周囲筋の緊張とプロファイルの改善も望まれる状況であったが、外科的な方法を望まなかったため、矯正治療単独での治療により可及的に改善を期待した。抜歯部位は、上顎第一小臼歯および下顎第二小臼歯とした。下顎の抜歯部位を第二小臼歯とした理由としては、high angle caseで犬歯関係は咬頭対咬頭を超えるAngle Class Ⅱであり、下顎骨の前方成長はあまり見込めない上に、咬合力も弱いタイプと判断したこと等による。マルチブラケット装置(.018inchミツバ社製LLブラケット)を用い、原則的に与五沢エッジワイズシステムに準じて治療をおこなった。顎外力は使用せず、顎間ゴム(主に二級ゴム)は使用する方針とした。臼歯の前後的垂直的コントロールのため、第二大臼歯のコントロールも留意した。なおセファロによる成長変化の予測であるが、この症例の特徴は、前顔面の高さが高く、後顔面の高さが低いことにある。A点は下方にあり、B点は後下方にある。関節等の位置は後方ではないが、下顎骨は小さく、Gonial angleは大きい。そのためB点の前方への成長変化は、上顎骨の下方への成長変化によりかなり打ち消されてしまうと考えた。
なお「与五沢メカニクス」や「成長予測」等については、Edgewise System〈Vol.1〉プラクシスアート(与五沢文夫著)や矯正臨床の基礎(与五沢文夫監修)などを参考になさっていただければと思います。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療後 After Treatment
治療経過 概要
動的治療開始時:マルチブラケット装置を装着し、上顎に.012ステンレススチールワイヤー(以下ss wire)を装着し第一大臼歯までのレベリングを開始
3ヵ月後:上顎前歯の叢生を除去するために上顎犬歯の遠心移動開始(.016ss wire)
4ヵ月後:上顎は引き続き上顎犬歯の遠心移動、下顎にも装置装着し、超弾性型ニッケルチタニウム製ワイヤー(以下Ni-Ti wire) .014wireよりレベリング開始
8ヵ月後:上下顎第二大臼歯のレベリング開始(上顎は.016ss wire、下顎は.014ss wire)。
12ヵ月後:上下とも.017×.025ssレクタンギュラーワイヤーを装着し、顎間二級ゴムを併用しながらのコンソリデーション開始。
18ヵ月後:コンソリデーションが終了したため、ポジションチェンジを行い、再レベリング(上顎は.018ss wire、下顎は.016ss wire)。
19ヵ月後:上顎は.017×.025ss wireのidealarch装着
20ヵ月後:Overbiteとoverjetを適正化するため、下顎前歯のstrippingを行い、下顎歯列は再度空隙閉鎖をおこなった
21ヵ月後:下顎も.017×.025ss wireのidealarch装着
24ヵ月後:マルチブラケット装置撤去。上下顎ともFSWにて保定開始
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療前後の比較(セファロの重ね合わせ)
治療前後のS-SNの重ね合わせ
治療結果
S-SNの重ね合わせから、B点は前方への移動量は小さく、下方への移動量が大きい。
上顎骨の重ね合わせから、上顎前歯は挺出しつつ舌側へ傾斜移動している。臼歯は少し挺出し、少し前方移動している。下顎骨の重ね合わせから、下顎前歯はわずかに挺出し遠心移動している。臼歯は挺出しながら大きく近心移動している。
成長によるB点の位置変化は前方へ大きく成長する症例もあれば、下方変化が大きい症例や後方へ変化する症例もある。その成長を予測した上で、治療メカニクスを組むことが大切になる。このケースでは、ワイヤーベンディングによるアンカレッジコントロールに、顎間ゴムを使用し咬合の改善を図った。このケースでヘッドギアを使用した場合、大臼歯は近遠心的位置を留めることができても、B点は後下方への移動を助長させてしまうことが予想される。上下顎の前後的関係、上下歯列の二級関係の是正にはむしろ不利に作用する。
治療経過 Progress
動的治療開始時:マルチブラケット装置(LLブラケット、第一大臼歯にはバンドにバッカルチューブを溶接)を装着し、上顎に.012ステンレススチールワイヤー(以下ss wire)を装着し第一大臼歯までのレベリングを開始。
3ヵ月後:上顎前歯の叢生を除去するためにパワーチェーンにて上顎犬歯の遠心移動開始(.016ss wire)。大臼歯の遠心移動を防ぐため、ワイヤーの第一大臼歯部近心にストップループを組み込んで、第一大臼歯のバッカルチューブにパッシブにあたるようにし、強くtoe in bendとtip back bend も付与した。なお、上顎側切歯の結紮は歯の捻転を除去するためではなく、犬歯の遠心移動の反作用に抗するためである。
4ヵ月後:上顎は引き続き上顎犬歯の遠心移動、下顎にも装置装着し、Ni-Ti .014wireよりレベリング開始。通常では下顎のレベリングでもss wireを用いアンカレッジコントロールも並行して開始するが、叢生が顕著なためNi-Ti wireにてalignmentを優先して進めている。この場合、下顎第二小臼歯を抜歯しているため特に第一大臼歯の位置関係が崩れてこない様を注意深く観察していく必要がある。
5ヵ月後:上顎右側は引き続き上顎犬歯の遠心移動。下顎も引き続き、Ni-Ti .014wireよりレベリング。
6ヵ月後:左上2をブラケットに付け替え、L-loopを組み込んだ.016ss wireにてレベリング。下顎はNi-Ti .016wireによりレベリング。
7ヵ月後:L-loopを組み込んだ上顎のwireを調節し、引き続きレベリング。特に上顎側切歯の捻転と舌側転位を改善するために同部は少し唇側に張り出したワイヤーとなっている。下顎はNi-Ti .016wireよりレベリングを継続。
8ヵ月後:上下顎第二大臼歯のレベリング開始(上顎は.016ss wire、下顎は.014ss wire)。臼歯の前後的垂直的コントロールを確実なものとするため、歯列の空隙閉鎖を行う前にコントロールを開始している。なお第二大臼歯のコントロールは犬歯の犬歯移動前に行うことも多い。
9ヵ月後:上顎が.018ss wire、下顎が.016ss wireにて、引き続き第二大臼歯までの臼歯のアップライト、およびレベリングを行っている。上顎左側近心レジン充填がオーバーハングのため、かかりつけ医に形態修正を依頼した。そのため同部のワイヤーは根尖側に逃してある。
10ヵ月後:上顎が.018ss wire、下顎が.018ss wireにて、引き続き第二大臼歯までの臼歯のアップライト、およびレベリング。
11ヵ月後:上顎が.018ss wireにて引き続き第二大臼歯までの臼歯のアップライト、およびレベリング。下顎は.017×.025ss wireにバーティカルクロージィングループを組み込んだワイヤーを装着。
12ヵ月後:上顎にも.017×.025ssバーティカルクロージィングループレクタンギュラーワイヤーを装着、活性化し、顎間二級ゴムを併用しながらのコンソリデーション開始。
13ヵ月後:引き続き顎間二級ゴムを併用しながらのコンソリデーション。
14ヵ月後:引き続きコンソリデーションを行っているが、左側犬歯関係は二級であり、下顎左側の空隙は他の部位より少ないため、引き続き顎間二級ゴムの使用を継続しつつ、同部の空隙閉鎖を一時停止している。
15ヵ月後:改善傾向が認められたため引き続き顎間二級ゴムの使用を継続しつつ、全部位でコンソリデーションを行っている。
16ヵ月後:引き続き顎間二級ゴムの使用を継続しつつ、全部位でコンソリデーションを行っている。
17ヵ月後:わずかな空隙を閉鎖しつつ、右側のみ顎間二級ゴムの使用を継続し、犬歯臼歯関係の確立をおこなっている。
18ヵ月後:コンソリデーションが終了したため、ポジションチェンジを行い、再レベリング(上顎は.018ss wire、下顎は.016ss wire)。
19ヵ月後:上顎は.017×.025ss wireのidealarch装着。下顎は.018ss wireにてレベリング。
20ヵ月後:Overbiteとoverjetを適正化するため、下顎前歯のstrippingを行い、下顎歯列は再度空隙閉鎖をおこなった。
21ヵ月後:下顎にも.017×.025ss wireのidealarchを装着し、咬合の緊密化をおこなう。
22ヵ月後;ワイヤーに組み込んだ3次元的な調整が馴染むまで時間をおきながら、顎間ゴムを併用し咬合の緊密化をはかる。
23ヵ月後:保定準備のため印象採得をおこなった。
24ヵ月後:マルチブラケット装置撤去。上下顎ともFSWにて保定開始。
保定 After Retention or During Retention
著しい変化はなく、安定している。
口腔内
患者情報
咬合分類とコメント | 上突咬合 下後退顎 両突歯列 叢生歯列弓 | ||||
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抜歯部位 |
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治療開始時年齢・性別 | 12歳7ヵ月 男性 | ||||
動的治療期間 | 1年11ヵ月 |