下顎を意図して時計方向に回転させて治療した症例
治療担当者:星 隆夫 星歯科矯正
治療前 Before Treatment
顔貌
口腔内
治療後 After Treatment
顔貌
口腔内
治療前 Before Treatment
治療方針
主訴は下突咬合の改善。患者は専業主婦で入院はできないのでオペは希望せず、矯正単独での治療を希望された。
治療目標は下突咬合、叢生歯列弓の改善、上顎左右側第二小臼歯、下顎左右側第一小臼歯、下顎左右側第二大臼歯の抜歯が必要と判断。
3級ゴムを使用し上顎大臼歯近心移動と挺出を行う。同時に下顎前歯の後退、下顎大臼歯のアップライトの固定源とする。
3級ゴムにより咬合平面を反時計回りに、下顎下縁平面を時計回りに意図的に回転させ著しい3級関係を改善することとした。
Chief complaint was protruding lower bite. The patient did not choose orthognathic surgery. So She treated orthodontic treatment with extraction of UR5,UL5,LR4,LL4,LR7 and LL7. Maxillary molars were extruded by Class III erastics. Simultaneously lower anterior teeth were moved lingually and Lower molars were let upright. Occlusal plane rotated counter clockwise and mandibular plane rotated crockwise. As a result the Class III relationship was corrected.
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療後 After Treatment
治療経過 概要
患者さんは反対咬合を主訴に来院。
上顎が小さく、過度に下顎骨が大きいため前歯部のかみ合わせが逆の反対咬合になっている。
通常では上下の顎の手術を行い反対咬合を改善する程度のすれであるが、患者さんは子育て中の主婦で入院はできないということで矯正治療単独で治療を行った。
上の顎の5番目の歯、下の顎の4番目と7番目の歯を抜歯して治療を行った。
患者さんが顎間ゴムを十分使用していただいたので満足いく治療結果が得られた。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療前後の比較(セファロの重ね合わせ)
<左図>
治療前後のS-SNでの重ね合わせ(黒線は35歳8ヵ月、破線は38歳8ヵ月)
<右図>
治療前後の上下顎骨および軟組織の重ね合わせ(黒線は35歳8ヵ月、破線は38歳8ヵ月)
治療結果
上顎前歯は少し唇側に傾斜している。
上顎大臼歯は挺出しながら近心へ移動している。
下顎前歯は挺出しながら舌側へ移動している。
下顎大臼歯はアップライトして、歯冠は数ミリ遠心へ移動している。
3級ゴムの効果により咬合平面は反時計回りに回転、下顎下縁平面は時計回りに回転し3級関係の改善に寄与している。
Treatment result
The upper anterior teeth were a little inclined labially. The upper molars moved mesially and extruded. The lower anterior teeth moved lingually. As a result plus ovejet was accomplished.
矯正専門医は横顔のレントゲン(セファロ)を撮ります。
それは患者さんのかみ合わせの成り立ちを知るためです。さらに治療前後のレントゲンをトレースし、重ね合わせて治療によりどのような変化が起きたか検証します。
歯がどのように動いたか?顎はどのように動いたか?治療後にこのような評価をすることでその治療結果を次ぎに直す症例に生かしていくことができます。
重ねあわせをしないということはどのように直ったかわからないということです。それでは矯正治療の質は向上していきません。
この症例では上の前歯が少し前に出て、下の前歯は後ろに後退しています。主に、この動きにより前歯の反対咬合が改善しています。
患者さんにIII 級ゴムを使用していただいたので上の臼歯は前方に移動しながら下方向に伸び出ています(挺出しています)。
この動きに応じて下の顎は後下方に回転し顎の先(オトガイ)は治療前より後ろに下がっているので側貌の改善に寄与しています。
この動きも反対咬合の改善に有利に働いています。
我々はこの変化を意図して行っています。たまたまの結果ではありません。経験の蓄積によりそれが可能になりました。
治療経過 Progress
上下顎にマルチブラケット装置を装着。
3ヵ月後に下顎第三大臼歯にバンド装着。オーバーレイ(.016″×.022″TMA wire)にてレベリング開始。
4ヵ月後上下顎.016″round SS wire セット。下顎左側第二小臼歯と第三大臼歯、下顎右側第一大臼歯と第三歳臼歯間にパワーチェーン装着。
5ヵ月後に下顎.016″×.022SS wire をセットし、パワーチェーンを継続。
7ヵ月後から3級ゴムを24時間の使用開始。
10ヵ月後に下顎犬歯と第三大臼歯間にパワーチェーン装着。
20ヵ月後に上顎.018″×.025″ SS wire アイディアルアーチ、下顎に.017″×.025″SS wire にV-loopを組み込んで装着。
29ヵ月後下顎.017″×.025″SS アイディアルアーチ装着。U&Dゴム使用開始。
治療期間33ヵ月にて動的治療終了。3級ゴム22ヵ月、U&Dゴム4ヵ月使用。上顎ペッグタイプリテーナー、下顎3-3fixで保定。
Multibrackets appliance were set on upper and lower jaw.
3m later the bands were set on lower thierd molars. And overlay (.016″×.022″TMA wire)was set lower jaw for leveling.
4m later .016″round SS wire were set upper and lower jaw. Power chain set between lower left second premolar and left third molar. Opposite side power chain set between lower right first molar and lower right third molar.
5m later 016″×.022SS wire was set on lower jaw, The power chains were used continuously.
7m later Class III erasticses were started to use throughout the day.
20m later .018″×.025″ SS ideal wire was set on upper jaw. .017″×.025″SS wire with v-loop was set on lower jaw for space closing.
29m later .018″×.025″ SS ideal wire was set on lower jaw.
33m later Maltibrackets appliance were removed. Begg type retainer was set on upper jaw. Canine to
canine fix type retainer was set on lower jaw.
マルチブラケット装置を上下に装着し細いワイヤーをブラケットに結び上下や左右のデコボコをとっていきます(レベリングといいます)。だんだんとワイヤーを太くしながらレベリングを進めていきます。
治療開始から3ヵ月後に下顎第三大臼歯(下の一番奥の歯、親知らず、通常は抜歯の対象となりますがこの症例では前方に位置する第一大臼歯(6番目の歯)を後ろに動かすため第二大臼歯(7番目の歯)を抜いています。そのため第三大臼歯は並べます)にも装置をつけて並べはじめました。
4ヵ月目に新しいワイヤーを装着し下の第三大臼歯と前方の歯にパワーチェーン(ゴムの一種)をかけて第一大臼歯を後ろに動かしはじめました。
7ヵ月目にIII 級の顎間ゴムの使用を開始しました。顎間ゴムとは患者さんに食事中以外にご自身で装着していただくゴムです。今回は上の奥歯から下の前歯にかけました。その作用は上の奥歯を前に移動させ、下の前歯を後ろに移動させます。反対咬合の改善に役立ちます。
10ヵ月目に下顎の犬歯(三番目の歯)と第三大臼歯(8番目の歯)にパワーチェーンを装着、犬歯を後ろに動かしはじめました。
20ヵ月目に上顎は太い仕上げ用のワイヤーを装着、下顎は前歯を後ろに下げて隙間を閉じるワイヤーを装着しました。
29ヵ月目に下顎に仕上げ様のワイヤーを装着し、前歯に上下に2本顎間ゴムをかける様に変更しました。
33ヵ月めにマルチブラケット装置を撤去し、上顎は取り外し式の入れ歯のようなリテーナー(保定装置)、下顎は前歯の裏側にワイヤーを固定するリテーナー(保定装置)を装着しました。
開始時:上下にマルチブラケット装置を装着
Multibrackets appliance were set on upper and lower jaw.
歯を抜いた隙間が見えます。四角いブラケットを歯に接着しています。そこにアーチ(歯列弓)の形をしたワイヤーをいれてそれぞれの歯のブラケットに結びます。そうすることで、上下や左右にデコボコしている歯が綺麗に並んできます。与五沢矯正研究会ではワイヤーは患者さんの歯列弓にあわせてきちんと曲げます。さらに歯の動きを最適化するための工夫を最大限に曲げ込んでいきます。
1ヵ月:1m
上下014ラウンドステンレススチールワイヤーを装着
.014round stainless steel wire were set on upper and lower.
上下のワイヤーを少し太いものに交換しました。ワイヤーが変形してしまうと歯が効果的に動かないため変形しないよう、ワイヤーの弾性を高めるため色んな曲げが組み込まれています。またブラケットとの結び方も工夫されています。
2ヵ月:2m
上下結紮
Ligatures tightened.
歯が動くとワイヤーとブラケットを結んでいる結紮線が緩んできます。ワイヤーが変形していないようなので改めて結紮(結ぶこと)し直してさらに歯が動くようにします。
下顎第三大臼歯にバンド装着。オーバーレイ(.016″×.022″TMA wire)にてレベリング開始。
the bands were set on lower thierd molars. And overlay (.016″×.022″TMA wire)was set lower jaw for leveling.
下顎第三大臼歯(下の8番目の歯)に装置を装着し並べ始めました。
4ヵ月後上下顎.016″round SS wire セット。下顎左側第二小臼歯と第三大臼歯、下顎右側第一大臼歯と第三歳臼歯間にパワーチェーン装着。
.016″round SS wire were set upper and lower jaw. Power chain set between lower left second premolar and left third molar. Opposite side power chain set between lower right first molar and lower right third molar.
だいぶ歯のでこぼこがとれてきて、斜めに生えていた歯もまっすぐになってきました。
この時点で上下に比較的しっかりとしたワイヤーをいれて下顎第三大臼歯と前の歯の間にパワーチェーン(ゴム)をかけて第一大臼歯(6番目の歯)を後ろに動かし始めました。
3級ゴムを24時間の使用開始。下顎は5ヵ月目に下顎に.016″×.022SS wireが装着されており第一大臼歯,第三大臼歯間にパワーチェーンがかかっている。
Class III erasticses were started to use throughout the day. At 5m 016″×.022SS wire was set on lower jaw, The power chains were used continuously.
7ヵ月目にIII 級の顎間ゴムの使用を開始しました.顎間ゴムとは患者さんに食事中以外にご自身で装着していただくゴムです。
今回は上の奥歯から下の前歯にかけました。その作用は上の奥歯を前に移動させ、下の前歯を後ろに移動させます。反対咬合の改善に役立ちます。
15ヵ月:
III 級ゴムを使用しながら、パワーチェーンを下顎第三大臼歯と犬歯にかけて犬歯の遠心移動を行っています。
Power chain set between lower third molar and canine for canine retraction with Class III elastics.
下顎の犬歯と第三大臼歯間にパワーチェーンをかけて,犬歯を後ろに移動しています。
左側の犬歯はかなり後ろに動いています。右側はまだ後ろの歯まで距離があります。
III 級ゴムは継続して使用しています。その効果で左上の第一大臼歯(6番目)と第一小臼歯(4番目)の間のスペースがなくなってきました。
犬歯の遠心移動が終了したので下顎に.017″×.025″SS wire にV-loopを組み込んで装着し前歯の後退を開始しました。上顎はIII 級ゴムの効果により抜歯空隙はほぼ閉鎖されていたので、上顎.018″×.025″ SS wire アイディアルアーチを装着しました。III 級ゴムは継続して使用しています。
Lower canine retraction had finished. .017″×.025″SS wire with v-loop was set on lower jaw for space closing. Upper extraction spaces had closed by mesial movement of first molars.It caused by Class III elastics. So .018″×.025″ SS ideal wire was set on upper jaw. Class III elastics were used continuously.
下顎の犬歯が十分に後ろに動いたので四角いワイヤーにVの形をしたループを曲げ込んだワイヤーを装着し前歯を後ろに後退させることを開始しました。ワイヤーに鑞着したフックと一番後ろの歯を結紮線で強く結びループを開きます。するとループが閉じる力で次の来院時までに前歯が後ろに動いて行きます。III 級ゴムはその動きを助けます。患者さんがIII 級ゴムを十分に使用していただいているおかげで上顎の第一大臼歯は前へ移動して歯を抜いたスペースはほぼ閉鎖されています。そのため、上顎は四角い仕上げのワイヤーを装着しました。
下顎のV-loopをアクチベートして前歯の後退を続けています。
V-loops were activated for anterior teeth retraction.
下顎のワイヤーのループを再度開いてさらに前歯を後退させます。
下顎のV-loopをアクチベートして前歯の後退を続けています。下顎右側犬歯にパワーチェーンをかけ遠心に移動しています。
V-loops were activated for anterior teeth retraction. Lower right canine was moved distally by power chain.
下顎のワイヤーのループを再度開いてさらに前歯を後退させます。下顎右側犬歯にパワーチェーン(ゴム)をかけうしろに移動しています。
下顎のスペースが閉鎖されました。下顎前歯のブラケットポジションを修正し再度016ラウンドワイヤーでレベリングを行っています。上顎は第二大臼歯にバンドを装着。アイディアルアーチにバイパスを鑞着しコントロールを開始。
In lower jaw space had closed completely. After check Brakets position, The position of few brakets had changed. 016 SS round wire set on lower jaw for relevering. Bands with barakets were set on upper second molars. 17×25 ss rectangular wires solderd ideal arch, as a bypass for upper second molars.
下顎のスペースが閉鎖されました。下顎のブラケットに位置が不良の歯についてブラケットを正しい位置につけ直しました。まるく比較的細いワイヤーを曲げ直して改めて下の歯を並べ直します。上顎は第二大臼歯(7番目の歯)にバンドを装着。アイディアルアーチにワイヤーを鑞着してバイパスによりワイヤーを伸ばして第二大臼歯のコントロールを開始しました。
下顎.017″×.025″SS アイディアルアーチ装着。U&Dゴム使用開始。
.018″×.025″ SS ideal wire was set on lower jaw. U&D elastics were started to use.
下顎仕上げの太い四角のワイヤーを装着。前歯に上下で顎間ゴムを使用開始。
上顎のブラケット位置不良部位のブラケット位置修正。再度016ラウンドワイヤーで再度レベリングを行った。
その際,スペースを空けないようにタイバックを行っている。U&Dゴムは使用を継続。
After checking upper brakets position, The position of few brakets had changed. 016 SS round wire set on upper jaw for relevering. U&D erastics were used continuously.
上顎にブラケット位置不良の歯があったので、ブラケット位置を変更細いワイヤーで改めて並べ直す。
U&D ゴムは使用を続けている。
上顎に新しいアイディアルアーチを装着。下顎はアイディアルアーチを調整。
New ideal arch (18×25 stainless steel wire) was set on upper jaw. Lower ideal arch was adjusted.
上顎に新しい仕上げのワイヤー(アイディアルアーチ)を装着。現状のかみ合わせに合わせ、下顎のアイディアルアーチを調整。上下の歯がだんだん緊密に咬んできました。
保定 After Retention or During Retention
マルチブラケット撤去後18ヵ月の保定中でも被蓋は維持している。
下顎右側犬歯遠心にスペースが生じているが、患者さんは今のところ再治療を希望していない。
マルチブラケット装置を撤去した後にリテーナーを装着し様子を見ます。写真は18ヵ月後のものです。
反対咬合は再発していません。
上下の歯はきちんと咬んでいます。
下の歯列弓に隙間ができてきました。
再治療を提案しましたが、患者さんはこのまま様子を見ることを選択されました。
顔貌
口腔内
患者情報
咬合分類とコメント | 下突咬合 叢生 下突顎 上後退顎 Protruding lower bite with crowding, Caused by receding upper jaw and protruding lower jaw . So-called skeletal Class III . |
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抜歯部位 |
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治療開始時年齢・性別 | 35歳8ヵ月 女性 | ||||
動的治療期間 | 2年9ヵ月 |