成長期にⅢ級ゴムを使用した上突咬合症例
治療担当者:妹尾 葉子 せのお矯正歯科
治療前 Before Treatment
顔貌
口腔内
治療後 After Treatment
顔貌
口腔内
治療前 Before Treatment
治療方針
治療前(初診時年齢:12歳10ヵ月)
主訴は出っ歯。
上下顎関係に水平的なズレを有するが、上顎骨は頭蓋骨との間に十分な奥行きがあり、下顎骨の位置はやや後方であるが、その形態は悪くない。
側貌において口元の突出感が強く、口唇閉鎖をしようとしても上中切歯が露出する。大臼歯関係は左右側ともにⅡ級であるが、右側でその程度が大きく、下の歯の正中も上顎に対して右側に偏位しているため、下顎の抜歯部位は右側で第二小臼歯、左側で第一小臼歯とする。
側貌の改善のためⅡ級ゴムを使いながら可及的に上顎前歯の後退を図り、途中大臼歯関係と側貌のバランスを見ながら可能であればⅢ級ゴムを用いて、下顎前歯の舌側傾斜も図ることとする。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療後 After Treatment
治療経過 概要
出っ歯を主訴に来院した。
上顎前歯の著しい唇側傾斜のため、口唇閉鎖が困難であった。十分に上顎前歯を後退させ、良好な咬合を得るために、上顎左右側と下顎左側第一小臼歯と下顎右側第二小臼歯を抜歯して治療をおこなった。
顎間ゴムの使用状況は良好で、治療後半にはClassⅢゴムを使うことができ、下顎前歯も後退させることができた。
上下前歯は十分に舌側移動され、顔貌も満足な結果が得られた。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療前後の比較(セファロの重ね合わせ)
治療前後で、上顎骨の成長量は少なかった。上顎前歯は圧下しながら舌側傾斜移動し、上顎大臼歯はやや挺出しながら近心移動した。下顎骨は下顎骨体に比べて下顎枝の成長が大きく認められた。下顎前歯は圧下しながら舌側傾斜移動し、下顎大臼歯は挺出しながら近心移動した。上下前歯が十分に後退したことと鼻が高くなったことが相まって、良好な側貌が得られた。上顎骨はわずかに下方に移動した。下顎頭の位置に変化は認められず、その成長方向は前下方を示した。
保定中の変化として上顎前歯の唇側傾斜が生じた。下顎の歯の位置にほとんど変化は認められなかったが、下顎枝の成長を認めた。上顎骨の位置は治療後とほぼ同じであったが、下顎骨が反時計回りの動きを生じたことで、上顎前歯が唇側傾斜し、ややcurve of Spee が現れたため、前歯部の被蓋が深くなった。
初診時を黒線、治療後を赤線、保定中を緑線で表す。
治療結果
上顎左右側および下顎左側第一小臼歯と、下顎右側第二小臼歯を抜歯後、上下顎に0.018,, standard edgewise装置を装着し、0.012,, 、0.014,, 、0.016,, round wireにてlevelingをおこなった(上顎3ヵ月、下顎4ヵ月)。
その後上顎犬歯はcoil springを用いて遠心移動し(10ヵ月)、下顎はpower chainを用いて左右側犬歯の遠心移動と左側第二小臼歯の近心移動をおこなった(8ヵ月)。
上顎はV-loopを曲げ込んだ0.018,,×0.025,, rectangular wireで前歯と臼歯の一体化を進めながら、下顎はClassⅡelasticで左右側第一大臼歯を近心移動させた。その後下顎にもV-loopを曲げ込んだ0.017,,×0.025,, rectangular wireでspace closeをおこなった(9ヵ月)。その時大臼歯関係を確認しながらClassⅢelasticを3ヵ月間併用し、下顎前歯の整直を図った。パノラマレントゲン写真を撮影し、ブラケットポジションを修正して0.016,, round wireで再levelingした後(1ヵ月)、上顎は0.018,,×0.025,,、下顎は0.017,,×0.025,, rectangular wireのideal arch にて仕上げをおこなった。このときup&down elastic を併用した(5ヵ月)。
治療経過 Progress
治療開始時(13歳0ヵ月)
上顎から治療を先行させた。
左右側第一小臼歯を抜歯し、0.012,, round wire でlevelingを開始。
4ヵ月後
下顎右側第二小臼歯と左側第一小臼歯を抜歯し、0.012,, round wire を用いて、叢生が大きな部位にはL-loopを曲げ込んでlevelingを開始。
上顎は0.016,, round wire でcoil springをtie back で活性化させながら、左右側犬歯を遠心移動させている。
7ヵ月後
上顎は犬歯の遠心移動を継続中。
下顎はplainの0.016,, round wire にpower chainで左側犬歯の遠心移動と第二小臼歯の近心移動をさせている。
10ヵ月後
上顎は犬歯の遠心移動を継続中。
ClassⅡelastic で下顎左右側第一大臼歯の近心移動を開始。
13ヵ月後
上顎は V-loop を曲げ込んだ 0.018,,×0.025,, rectangular wire で、前歯の舌側移動を開始。
下顎は左右側第一大臼歯の近心移動を継続中。
16ヵ月後
上顎の space closeと下顎は左右側第一大臼歯の近心移動を継続中。
19ヵ月後
上顎は space close を継続中。
下顎は V-loop を曲げ込んだ 0.017,,×0.025,, rectangular wireで、前歯の舌側移動を開始。
ClassⅢ elastic で前歯の整直を図る。
21ヵ月後
上顎はブラケットポジションを修正後、0.016,, round wireで再leveling。
下顎は 0.017,,×0.025,, rectangular wire のideal arch を装着。第二大臼歯近心にL-loop を付与し、アンギュレーションを修正している。
25ヵ月後
上顎は 0.018,,×0.025,, rectangular wire のideal arch を装着。
下顎は 0.017,,×0.025,, rectangular wire のideal arch を装着。
Up & down elastic を併用して咬合の緊密化を図っている。
保定 After Retention or During Retention
Multi-bracket 装置を撤去後、治療前に上顎に正中離開があったため、保定装置として、左右側中切歯舌側をwire 固定し、加えて可撤式のBegg type retainer を装着し、下顎には左右犬歯間のF.S.W.を使用している。
保定12ヵ月後で上下抜歯スペースがわずかに戻り、前歯部の被蓋が深くなっているが、咬合は安定している。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
患者情報
咬合分類とコメント | 上突咬合 過蓋咬合 上突顎 下後退顎 両突歯列 | ||||
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抜歯部位 |
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治療開始時年齢・性別 | 13歳0ヵ月 男性 | ||||
動的治療期間 | 2年5ヵ月 |