成長発育期の上突咬合の一治療例
治療担当者:大野 秀徳 おおの矯正歯科
治療前 Before Treatment
顔貌
口腔内
治療後 After Treatment
顔貌
口腔内
治療前 Before Treatment
治療方針
主訴は上の前歯が前突していること。
初診相談で来院されたのは、混合歯列期の10歳1ヵ月時であった。その時点で、早急な前突の改善を望まれたが、早期治療の治療効果がほとんどないことを説明し、永久歯列期まで治療開始を遅らせることをご了解いただいた。
初診から2年ほどの経過観察を経て、永久歯列期の矯正治療を行った。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療後 After Treatment
治療経過 概要
上顎前歯の前突の改善とともに、オトガイの前後的、上下的な位置づけが最重要になる。
この症例ではheadgearなどの顎外固定装置を使用しても顎関係の改善はできず、むしろ下顎を時計方向へ回転させⅡ級臼歯関係の改善や顔貌の改善にマイナスな影響が起きると判断したため、顎外固定装置を使用しなかった。
上顎歯列内で上顎第一大臼歯の近心転位が起こらないよう十分な配慮をするとともに、上顎前歯の舌側移動時にⅡ級ゴムを使用し下顎歯列全体の近心移動を行ってⅡ級臼歯関係の改善を試みた。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
治療前後の比較(セファロの重ね合わせ)
<19左図>
治療前後のS-SNでの重ね合わせ
(黒線は12歳4ヵ月、赤線は15歳4ヵ月、緑線は18歳3ヵ月)
<19右図>
治療前後の上下顎骨および軟組織の重ね合わせ
(黒線は12歳4ヵ月、赤線は15歳4ヵ月、緑線は18歳3ヵ月)
治療結果
上顎前歯は後退し、Ⅰ級咬合の確立と顔貌の改善が達成された。
下顎は、予想されたように上下関係を改善できるほどの大きさになっていないが、FMAはほぼ保たれY-axisは変化していない。鼻の前方への成長が大きい。オトガイも形成されている。
もしこの症例にheadgearを使用し、上顎第一大臼歯の近心移動を抑制したとしたらどうなるだろうか。成長発育による近心移動を抑制するということは、最終的な第一大臼歯の近遠心的な位置を遠心方向へ移動したことと同等となる。その結果下顎は臼歯の咬合接触を保つようにして時計方向へ回転する。また同時に「つまずき現象」が生じれば、A点はより下方に位置することになり前歯の咬合接触を保つようにしてさらに時計方向へ回転する。その場合、上下大臼歯の咬合が離開すれば咬合を維持するためには当然大臼歯は挺出するはずであり、下顎大臼歯がその役割を果たすはずである。下顎が時計方向へ回転すればⅡ級臼歯関係はより増悪する。鼻の高さやオトガイの位置にも影響を与えることになり、プロファイルの改善にはマイナスになる。よって当然ながらこの症例にはheadgearを使用すべきではない。
上顎前歯の舌側移動が終了したころから患者さんの治療に対する協力が非常に悪くなった。
顎間ゴムの使用とブラッシングの協力が得られなくなり前歯部には脱灰が生じている。
治療経過 Progress
< 治療開始時 08/3/31 12y10m >
開始時 上下顎にマルチブラケット装置を装着
< 治療開始3ヵ月 08/6/30 12y10m >
上下顎 .016インチのステンレススチールワイヤーを装着。
上顎はオープンコイルを挿入し、犬歯の遠心移動を開始。
< 治療開始9ヵ月 08/12/24 13y4m >
上顎に .017X025インチのV loop を組み込んだステンレススチールワイヤーを装置。
上顎前歯の舌側移動開始。
< 治療開始17ヵ月 09/8/29 14y0m >
上下顎ともに抜歯空隙の閉鎖終了。Ⅱ級ゴムを使用している。
保定 After Retention or During Retention
咬合は安定している。もともと咬合はしっかりしているため、
下顎前歯は叢生が戻りやすいと考えられる。
患者さんは下顎前歯の固定式保定装置の撤去を望まれなかったため、現在も保定を継続中である。
顔貌
口腔内
模型
セファロ
パノラマ
患者情報
咬合分類とコメント | 上突咬合 上突歯列 上突顎 下後退顎 典型的な、Angle Class Ⅱ div.1 の症例 |
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抜歯部位 |
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治療開始時年齢・性別 | 12歳4ヵ月 女児 | ||||
動的治療期間 | 2年9ヵ月 |