スタンダードエッジワイズ症例
【失敗矯正例1】非抜歯・拡大治療のリスク
無計画な非抜歯・拡大治療で、歯根が歯ぐきからはみ出てしまった!
「永久歯を抜かずに矯正治療ができる」という医院で、抜歯を行わずにあごの骨を拡大させる方法で治療を開始したものの、生体の限界を超えた過度な拡大により、奥歯の歯根が歯ぐきからはみ出てしまった失敗症例をご紹介します。
患者さんが「できる限り歯を抜きたくない」と考えるお気持ちは理解できます。しかし、そもそも何のために矯正をするのでしょうか? どのような治療結果を得たくて治療を決意するのでしょうか?
この失敗症例を通して、治療結果を考えず「歯を抜かない」を優先させた場合にどのようなリスクがあり得るのかを知っていただき、治療方法を選ぶ際の材料にしていただければと思います。
再治療者 | 有松 稔晃 ありまつ矯正歯科医院 |
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治療開始時年齢・性別 | 16歳10ヵ月・男性 |
前医での治療装置 | 拡大装置 |
患者さんの症状 |
<歯根が歯ぐきからはみ出てしまった!!> ![]() ![]()
前医に不信感を持ったため、Yogosawa Foundation会員の歯科矯正医にセカンドオピニオンを求め、転院して再治療を開始しました。 |
■拡大矯正とは?
<骨の再生力を利用して上あごを拡大する装置>
拡大装置とは、上あごに対して側方に押し広げる力を加えて上あごの中心を走る「正中口蓋縫合」をあえて離解させ、
骨が再生しようとする力を利用してあごの骨を拡大するための装置です(右図)。
上顎骨は「拡大装置により、ある程度歯槽基底を広げることができる」とされています。



取り外し式プレートも固定式・急速拡大装置も、骨を拡大していくことは同じです。ネジやワイヤーの弾力を利用して骨を拡大していきます。
固定式・急速拡大装置は、取り外し式装置よりも強い力で確実に24時間力を加え続けることができるため、早く拡大できるとされていますが、かなり強い痛みが伴い、食事の際も食べ物が挟まりやすく、取り除きにくい難点があります。
■この症例の問題点
でこぼこの歯並びをきれいに並べ直すには、そのためのスペースを新たに確保する必要があります。
前医が拡大装置を使ってあごを広げたのは、歯を抜かずにスペースを確保するためでした。拡大装置を使用した場合、歯がきれいに並ぶまで拡大を続けることになります。
しかし、問題はあごの拡大には限界があるということです。
この症例では、生体の限界を超えるまで拡大を続けた結果、歯並びがあまり改善しなかったばかりでなく、奥歯の歯根が歯ぐきからはみ出た状態になってしまいました。
<健康な状態の歯の構造>

- 歯は歯槽基底に支えられています。
- 歯と歯槽骨は歯根膜を介して繋がっています。
※歯根膜はクッションの役割もします。 - 歯槽骨は歯肉に被われています。
- 歯槽骨の土台となる部分を歯槽基底といいます。
※歯は歯槽基底を超えて動かすことはできません。
<歯根が露出してしまった歯の状態>


上のイラストおよびCT画像では、過度の拡大治療により歯が歯槽基底を超えてしまい、歯根がはみ出ています。
そして、本来、歯根を覆っているはずの「歯槽骨」「歯根膜」「歯肉」が全てなくなっています。
歯根膜がなくなってしまうと、歯槽骨と歯肉が再生することは二度とありません。
この症例から学ぶべきポイント
本症例は「歯を抜かずに矯正治療ができる」と謳う医院が、拡大装置による過度な拡大治療を行ったことが大きな失敗要因でした。
また、治療結果よりも「歯を抜かない」という方法を優先したことで、2年以上の時間とその間の治療費がムダになってしまいました。
「歯を抜かずに矯正治療ができる」という言葉は、健康な歯をできるだけ抜きたくないと考える患者さんにとっては素晴らしい言葉に聞こえるかもしれません。
しかし、矯正治療をお考えの患者さんには、ご自分がどのような治療結果を得たくて矯正治療を決意するのか、もう一度よく考えていただきたいと思います。
私たち歯科矯正医も、もし歯を抜かずに治療ができるのであれば、決して「歯を抜きましょう」とは言いません。
Yogosawa Foundation会員の歯科矯正医は、必要であれば最初にきちんと「歯を並べるスペースを確保するために、歯を抜く必要があります。」とお伝えします。
その上で、治療がどのように進むのか、治療結果はどのようになるのか、納得いただけるまでご説明します。
私たちが用いる治療法「スタンダードエッジワイズ法」では、1本1本の歯を精密にコントロールして動かしていきます。抜歯によって確保したスペースを活かして、安定したきれいな歯並び・機能的な咬み合わせ、均整のとれた美しい横顔を目標にした治療を進めていきます。
矯正治療の正しい目標に向けて治療を進めるために、抜歯が必要なケースもあることを知ってください。