治療計画の重要性
経験を積んだ歯科矯正医が作る「治療計画」
矯正歯科治療を受ける際に、重要なのが「治療計画」です。
歯科矯正医は、治療開始前の精密検査で撮影したセファログラム(頭部X線規格写真)を用いて、手作業でトレース分析を行い、「咬み合わせ」「前歯の位置」「口元」の理想の仕上がりを策定します。
手作業でトレースを行うことで、実際に治療を開始した時に患者さんの歯がどのように動くかをイメージしやすくなります。
また、あごや顔面の構造を見ることで、あごの成長方向や治療による位置の変化などを予測することができるため、より緻密な治療計画を立てることが可能になります。
最近ではソフトウェアを使用して分析するところもあるようですが、ソフトウェアは一般的な患者さんの平均値をもとに算出するため、治療後の結果がソフトウェアのシミュレーションと大幅に違うことも少なくありません。
治療計画では、万が一の予期せぬトラブルが発生した場合のことなども含め、さまざまなシミュレーションを重ねます。その際、知識・経験に基づいて得られる治療者の“勘”も必要になります。人間である歯科矯正医が人間である患者さんとしっかり向き合うことで、予期せぬトラブルにも備えることができるといえるでしょう。
マウスピース型矯正治療では、この治療計画をメーカーに任せてしまうため、計画を立てる人間が生身の患者さんと接する機会はありません。治療計画の作成は模型だけで行われ、セファロは用いられないため不正確と言わざるを得ません。また、治療計画を作らずに治療を開始する歯科医師もいるようです。
なぜ治療計画が重要なのか
治療計画は「設計図」のようなもの
家を建てる時のことを考えてみてください。まずは設計図を作り、設計図をもとに施主さんと十分に話し合い、ご納得いただいた上で工事が始まるのではないかと思います。
矯正治療は、病気や怪我の治療のような肉体を「元の状態に戻す」ための治療と違い、「新たな状態を創り出す」ことが治療の大部分を占めます。そのため、何をもって治療目標(ゴール)とするかは治療を行う歯科医師によって多種多様で、一つではありません。そのため、治療を始める前の段階で、患者さんが「治療を受けたら自分はどんな風に変わるのか」を知るためには、歯科矯正医が作成した治療計画が必要になります。
Yogosawa Foundation会員の歯科矯正医は、精密検査をもとに治療計画を作成し、治療の内容について患者さんにしっかりと説明を行います。患者さんは十分な説明を受け、心から納得できたと感じた時に初めて治療を受けることを決意するのです。
設計図なしで家を建てますか?
治療計画なしに矯正治療を始めるのは「設計図なしで家を建て始めるのと同じこと」と言えます。この場合、どんな家が完成するのか、いつ完成するのかもわからないまま工事が進み、出来上がった家が気に入らなくても住まなくてはなりません。「そんなことはあり得ない」と思うかもしれませんが、現在の日本の歯科矯正医療を取り巻く環境は、そういったことが起こり得るのが現実なのです。
矯正治療を始める前に治療計画を立て、治療についての説明を受けることの重要性が、おわかりいただけるでしょうか。
しっかりとした治療計画のために
現在の状態を知るための精密検査
しっかりとした家を建てるためには、家が建つ土地もしっかり調べるでしょう。私たちも治療計画を作成するために、患者さんの状態を把握するための精密検査を行います。
検査では、セファログラムといわれる頭部X線規格写真の撮影(正面・横顔の2枚)、口元のパノラマレントゲン撮影、歯型模型の作成、写真撮影を行います。明確な治療計画を作るためには最低限これらの資料が必要と考えます。資料をもとに治療のシミュレーションを行い、治療計画を立てていきます。
シミュレーションと理想の仕上がりの設計
精密検査で採取したレントゲン写真や模型、写真などの資料を何度も繰り返し観察し、治療のシミュレーションを行います。目で見るだけでなく、模型は手で持ち上げ、指で触ったりもします。Yogosawa Foundationでは、こうした観察を繰り返すことで、歯科矯正医が感覚的に症例の特徴と原因をとらえることがもっとも重要なポイントだと考えています。
治療目標(ゴール)の設定では、シミュレーションによる分析結果を踏まえ、主に「咬み合わせ」「前歯の位置」「口元をどうするか」を考えた理想の形の仕上がりを設計します。治療目標(ゴール)が定まると、そこまでの手順や期間も見えてきます。Yogosawa Foundation会員による矯正治療では、治療開始前にご説明した治療期間から大きく延長することはほとんどありません。それは、詳細なシミュレーションをもとに明確な治療計画を立てているからです。
矯正治療を行う歯科医院は、最低限セファログラムを導入していることが必要です。撮影したセファロをトレースした分析をしてくれる歯科矯正医のところで治療をすることを強くお勧めします。
「心地よい状態」を考慮した治療目標(ゴール)
治療目標(ゴール)を設定する際にもっとも大切なことは、患者さんの身体にとって「心地よい」状態とは何かということです。そのためには、全体から切り離した一部分のみに囚われるのではなく、全体の調和ということを考慮する必要があります。
たとえば、歯並びだけがきれいに整うことをゴールとした結果「口元全体が前に出てしまう」「咬み合わせが悪くなり顎関節を痛めてしまう」などの、いわゆる失敗矯正が起こるのは、“歯並び”という部分だけを見て、呼吸に関係する口唇の状態やあごの運動の主体である顎関節を含めた身体全体の調和を考慮していないからなのかもしれません。
Yogosawa Foundationでは、歯科矯正医自身が患者さんと向き合い、コミュニケーションをとり、信頼関係を築くことを重要視しています。患者さんを理解し、患者さんの身体にとっての心地よい状態とはどういう状態なのかを感じとることは、治療計画を作成するためはもちろん、その後の長い治療期間を共に歩むために欠かせないと考えるからです。
矯正歯科医院を選ぶ際には、セファロをトレースした設計図をはじめ、しっかりとした治療計画を作成する医院であるか、患者さんの疑問や不安にきちんと向き合い説明してくれる歯科矯正医であるかどうかが大切になります。