スタンダードエッジワイズ症例
【症例8】1期治療は必要ありません!
成長発育期の上突咬合の治療例
治療者 | 大野 秀徳 おおの矯正歯科 |
---|---|
咬合分類 | 出っ歯(上突咬合 上突歯列 上突顎 下後退顎) 出っ歯が強く、口呼吸になる症例 |
治療開始時年齢・性別 | 12歳4ヵ月・女児 |
動的治療期間 | 2年9カ月 |
抜歯 | 有 |
患者さんの症状 | ご来院された当時10歳1ヵ月のお子さんは強い出っ歯でした。早急に治療してほしいと訴えていらっしゃいましたが、混合歯列期であり、どのように治療していくかよく見定める必要がありました。今回の場合、早期治療の治療効果がほとんどないことをご説明し、歯が全て生え変わる永久歯列期まで治療を遅らせることをご了解いただき、初診から2年間ほど経過観察を経て、矯正治療を行いました 。 |
■ここがポイント!
治療前、口を閉じる時にぎゅっと力が入ってあごや唇にしわが寄っています。自然に口を閉じられない状況が見て取れます。
治療後は自然に口が閉じ、大変きれいになりました。口元の位置が後退したことで、鼻と口の位置関係が改善されています。
■治療前 Before Treatment
- 唇を閉じる際、あごや唇に力が入って自然に閉じられていません。
- 口元が非常に突出しています。
- 上あご自体が前に突出している
- 下あごが後退している
- 前歯が斜め前に突出している
この3つの要因が重なって、強い出っ歯になっている状態です。
成長期の上突咬合では、1期治療は必要ないことがほとんどです。
乳歯列期や混合歯列期に1期治療を行っても、2期治療が必要無くなることは非常に稀です。また、1期治療を行うことで2期治療の治療期間が短縮されることや、治療のための抜歯が回避できるといったメリットが言われますが、それを裏付けるエビデンスは存在しません。1期治療の効果のエビデンスは、上の前歯の軽度の外傷の頻度が少し減少することだけです。個別の症例では1 期治療が必要な症例もありますが、一般的に必要が無いことが多いです。中には既製品(できあい)の装置を安易に使用する歯科医師も存在します。そのような歯科医師の行っている早期治療には注意が必要です。
■治療経過 Progress
歯科矯正医の計画通りに治療が進んでいることがわかります。大変順調です。
2008/3/31 治療開始 上下にマルチブラケットを装着
2008/6/30 オープンコイルを入れ犬歯を後ろへ移動していきます。
(犬歯は歯根が最も長く頑丈で、上下額の咬み合わせに重要な役割があり、抜歯や移動には神経を使います。)
2008/12/24 前方に突出した前歯を舌側方向に向けて移動開始
2009/8/29 前歯の向きがきれいに下向きになっています。
抜歯したスペースもきれいに埋まってきています。
■治療後 After Treatment
顔貌は自然な状態になり、力を入れなくても自然に唇を閉じることができています。
- 治療前に比べると唇の位置が後退し、突出していた口元が美しくなりました。
- 前歯は前方に突出した状態からきれいな下向きへと改善されました。
- 上あごは後退し、出っ歯だった状態から健全な状態へと導かれました。
- 奥歯の咬み合わせも上下がしっかり咬み合った状態です。
■保定 After Retention or During Retention
咬合は安定しています。元々、咬合はしっかりしており、咬む力が強く下あごの犬歯間の幅径が 経年的に狭くなる可能性が強い患者さんであるため、下の前歯はでこぼこ(叢生)が戻りやすいと考えられます。患者さんは下の前歯の固定式保定装置の撤去を望まれなかったため、現在も保定を継続中です。
治療前後の頭部X線規格写真(セファロ)の重ね合わせ
(黒線は初診時12歳4ヵ月、赤線は保定3ヵ月目15歳4ヵ月、緑線は18歳3ヵ月)
上図は治療前後の頭部X線規格写真(セファロ)のトレースを重ね合わせたもので、どの部位がどの方向に移動したか読み解くことができます。
元々非常に突出していた口唇は、その突出感をかなり減少させました。治療により鼻とあごは前方へ移動し、口の位置は後方へ移動したことが読み取れます。こうして成長を取り込み、出っ歯の状態から美しい自然な状態へと導くことができました。
総括
頭部X線規格写真(セファロ)でも、治療前と治療後の違いがはっきり見て取れます。
前歯の状態は明らかに変化しており、口元の軟組織(筋肉)の形にもはっきり変化があります。
鼻と口の位置関係が改善し口元が後退しきれいに整い、オトガイ(あごの前方への出っ張り)もできていることがわかります。歯列とともに顔貌もきれいに改善されています。